脳にあらゆる記憶を 書き込むためのペン。
人は長い間、記憶を脳だけに委ねてきました。紙とペンが情報を脳の外に記し、ハードディスクが膨大な"外部脳"を与えた現代でも、自分の知識として脳の中に置いておきたい記憶は残ります。それでもほとんどの人は覚えておきたいことを忘れ、ただがむしゃらに復習を続けている。「脳にあらゆる記憶を書き込むためのペン」は、いまだ存在しない。Ebbioは、その役割を担います。
名前の由来
Ebbioはアプリ内でFSRSを採用していますが、忘却研究の原点とも言えるエビングハウスの忘却曲線、そしてそれを発見した Hermann Ebbinghaus への敬意を込めて命名しました。
エビングハウスの忘却曲線もFSRSも、研究としては高い完成度を誇るにもかかわらず、一般にはあまり使われてきませんでした。使われている場合も、単語の暗記やフラッシュカードのような限定的な用途にとどまっていた。Ebbioは、これらの技術を一般レベルで最適化し、あらゆる記憶の保持状況・再生確率を可視化することを目指します。
なぜEbbioを作ったか
Ebbioは、開発者自身が業務知識の習得において「覚えたはずのことを思い出せない」という問題を抱えていたことから始まりました。
覚える必要があったのは、単語だけではありませんでした。英語とフランス語の語彙は両言語合わせて3,000語以上。それに加えて資料作成の手順、赴任先の地図、その他業務で使う幅広い知識。形式も分野もばらばらなものを、同時に頭に入れておく必要がありました。半年にわたって学習を続け、できるだけ復習しようと努めていたにもかかわらず、4ヶ月後には初期に覚えた内容の半分以上を思い出せなくなっていた。
最初に試したのは単語帳アプリでした。2つのアプリを1〜2ヶ月使って、見切りをつけた。いつ見直すかを自分で決める方式では、結局また忘れてしまう。加えて、どちらのアプリもラベリングの自由度が十分ではなく、語彙以外の知識を整理する用途には足りませんでした。
次に間隔反復アプリを試しました。ここでも2つ、3ヶ月使った。復習日はアプリが決めてくれるようになりましたが、使われているアルゴリズムが古く、体感で2割ほどはすでに覚えている内容の出題だった。適切でない出題に時間を取られていた。そしてこちらでも、ラベリングの自由度は足りなかった。
そんな中でFSRSを見つけました。数億件の実レビューデータにフィットした現代的な記憶モデルで、明らかにこれが答えだと感じた。ところが、FSRSを導入できるアプリは限られていた。試した4つのうち1つで導入を試みましたが、アドオンの取得やコードの貼り付けといった操作が煩雑で、使える状態になるまで50分ほどを要した。導入後の操作性もいまひとつで、見た目も無骨でした。
そして最大の問題が残っていました。そのアプリは単語学習に特化しており、資料作成の手順や地図のような他の形式には合わなかった。アルゴリズムだけが最新になっても、覚えたいものが単語でなければ意味がなかったのです。もうひとつ、仕事で使う知識には秘匿性の高いものが含まれる。それが外部のサーバーに送られることにも、不安が残りました。
5つの設計判断
- FSRS-4.5を標準搭載にしたユーザーがアルゴリズムを意識することなく、最初の1枚目から現代的な間隔反復が動く。復習日を自分で決める必要も、アドオンの取得やコードの貼り付けに時間を費やす必要もありません。
- 記録の単位を単語カードに限定しなかった語彙も、手順も、地図も、業務上の知識も、すべて同じ仕組みで扱える。形式が違うという理由で管理を分ける必要はありません。
- 知識の分類を十分に階層化できるようにしたCollection、その内部をツリー(目次)で章・大問に分ける構造、「1-3-6」のように位置を直接指定できるPath、そして横断的なタグ。語彙と手順と地図を、同じアプリの中で別々の体系として整理できます。
- 初期状態では機能を最小限に絞ったコレクション、タグ、予習モード、時間の上限、通知設定などは、必要になった時点で有効化できる。最初から全機能が並んでいることによる複雑さを持ち込みません。
- プライバシーとセキュリティを設計の中心に据えたデータは既定で端末内に保存され、外部のサーバーには送られない。PBKDF2-SHA256(600,000回)+ AES-256-GCM の暗号化、4〜8桁のパスコード、任意の文字列によるアプリロック、生体認証、ナンバーパッドの配置ランダム化、第二プロファイルまで、必要な水準を自分で選べます。
料金について
Ebbioは買い切り制を採用しています。これは、あまねく人々がこのツールにアクセスできるようにするためです。
記憶は、人生において大きな意味を持つ概念です。それをサポートする以上、広告のような余計な情報によって体験が乱されることは避けたいと考えました。アプリの保守と開発を続け、記憶の維持装置・可視化装置として長く使い続けてもらうための料金を、一度だけ支払っていただく。それによってユーザーの負担を抑えながら、アプリの持続性を担保しています。
競合との違い
間隔反復を謳うツールの多くは、両極のどちらかに偏っています。研究としての完成度は高くとも設定や操作が複雑で学習コストを要するものか、逆に手軽さを優先するあまり語彙や語学学習といった限定的な用途にしか最適化されていないもの、あるいはノート整理などが主目的で記憶の維持そのものを中心に据えていないもの。
Ebbioは、このあいだを埋めます。FSRS-4.5・負荷平準化・予習モードといった研究レベルの仕組みを、単語カードのような狭い用途にとどめず、あらゆる記憶に汎用的に使えるよう実装しました。それでいて画面や操作は必要最小限に絞り、使う機能だけをアクティベートできる設計により、複雑さを持ち込まずに、その精度だけを届けています。
汎用性を優先しているからといって、単語学習のような一分野に絞った勝負で見劣りするわけではありません。単語カードだけを取り出して比べても、Ebbioの土台であるFSRSは旧来の忘却曲線をもとにしたアルゴリズムより新しい世代の間隔反復システムであり、十分に優位に立てます。
Ebbioが向かない用途
ひとつは、複数人での教材共有を前提とした学習。Ebbioは個人が自分の記憶を維持するためのツールとして設計されており、デッキを共有して集団で使う用途は想定していません。
もうひとつは、複数端末から同じデータにアクセスして、さまざまな媒体で利用すること。データを端末内に保持する設計の裏返しとして、端末間の同期は現時点で提供していません。暗号化とプライバシー保護の知見を活かした安全な形での選択的な同期機能(Ebbio Sync)は検討していますが、まだ実装されていません。
開発元について
開発元はCyver Labs。FSRSを一般レベルで汎用化するという「Ebbioプロジェクト」のために、有志によって立ち上げられました。2025年10月にプロジェクトが始動し、プログラマーやデザイナーの有志が加わって開発が続き、2026年9月にリリース。現在も積極的に開発を続けています。
Cyver Labs という名前には二つの由来があります。ひとつは、このプロジェクトがサイバー空間なしには成立し得なかったという事実。膨大な記憶の状態を一つひとつ計算し、その日ごとに最適な復習を組み立てる仕組みは、コンピュータとネットワークの時代に初めて可能になったものです。もうひとつは、Cy(cle) + ver(sion / veritas) という構成。記憶が繰り返し想起されるたびに、更新され続ける自己(version)として、また真実(veritas)として定着していく、という考え方を名前に込めています。
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